日本銀行は2026年6月の金融政策決定会合で政策金利を1.0%程度へ引き上げ、1995年以来およそ31年ぶりの水準となりました。7月末の会合では1.0%で据え置かれたものの、日銀は基調的な物価上昇率が2%を上回る可能性に言及しており、「金利のある時代」と「物価の上がる時代」が同時に定着しつつあります。
こうした環境では、現金や普通預金の実質的な価値は静かに目減りしていきます。一方で、値上げを販売価格に反映できる企業、資源や不動産といった実物資産を持つ企業、金利上昇が収益に直結する金融機関は、インフレをむしろ追い風に変えられる存在です。
本記事は好評をいただいた「インフレに強い日本株10選」の続編(Vol.2)です。前回ご紹介した10銘柄とは重複しない、まったく新しい10銘柄を厳選しました。2026年8月上旬までに出そろった第1四半期決算の内容も踏まえ、各社の強み・リスク・注目ポイントを整理してご紹介します。
Vol.2の狙い ─ Vol.1と重ならない10銘柄で「分散」を効かせる
Vol.1では、三菱商事・INPEX・JT・味の素・三菱UFJフィナンシャル・グループ・東京海上ホールディングス・三井不動産・東京ガス・神戸物産・パン・パシフィック・インターナショナルホールディングスの10銘柄を取り上げました。Vol.2ではこれらと一切重複させず、同じテーマを別の切り口・別のセクターから押さえられる10銘柄を選んでいます。
インフレ耐性のある銘柄をひとつのセクターに集中させてしまうと、そのセクター固有の悪材料が出たときに資産全体が大きく揺れます。たとえば資源株ばかりを保有していれば、商品市況の反落局面で一気に含み損を抱えることになります。Vol.1とVol.2を組み合わせて「複数の耐性タイプを持つ」という発想が、インフレ局面での資産防衛には欠かせません。
ポイント:Vol.2の10銘柄は、Vol.1と同一セクターに寄せず「資源・素材」「不動産」「金融(銀行・生保・リース)」「食品・日用品」「インフラ」「小売」に分散させています。すでにVol.1の銘柄を保有している方は、足りない耐性タイプを補う視点でご覧ください。
2026年のインフレ・金利環境をデータで確認する
銘柄選びの前提として、まずは足元の物価と金利の状況を押さえておきましょう。
| 消費者物価指数(総合) | 2026年6月は2020年=100として113.6、前年同月比+1.7%(総務省統計局) |
| コアCPI(生鮮食品を除く) | 113.1、前年同月比+1.6%。2026年2月から5か月連続で1%台に留まる |
| コアコアCPI | 112.2、前年同月比+1.7%。上昇率の鈍化は続くが水準は高止まり |
| 政策金利 | 2026年6月会合で0.75%→1.00%へ引き上げ。7月31日会合は1.00%で据え置き |
| 日銀の物価見通し | 2026年度+2.5%、2027年度+2.4%(2026年7月の展望レポート) |
注目したいのは、上昇率こそ2%を下回る水準まで落ち着いたものの、物価「水準」そのものは高いまま据え置かれている点です。指数は2020年比で13%以上高く、家計の実感としての負担は消えていません。日銀は6月会合の議事要旨で、原油価格の上昇が消費者物価へ波及しているとの認識を示し、企業の値上げ意欲の高まりを背景に追加利上げを支持する意見も出ました。
つまり2026年後半の日本株投資は、「インフレが終わった前提」ではなく「インフレと金利上昇が続く前提」で組み立てるのが自然です。この前提が、以下でご紹介する4つのチェックポイントにつながります。
インフレに強い日本株を見極める4つのチェックポイント
Vol.1では「価格転嫁力」「実物資産」「金利上昇メリット」の3つの視点を示しました。Vol.2ではこれに「節約需要の受け皿」を加えた4つの軸で銘柄を分類します。
視点1:値上げが数量減を招かない「価格転嫁力」
原材料や人件費の上昇分を販売価格に上乗せしても、顧客が離れない企業です。ブランド力・シェア・代替品の少なさが源泉になります。判断材料としては、値上げ後も販売数量が前年を上回っているか、粗利率(売上総利益率)が維持・改善しているかを確認すると分かりやすいでしょう。
視点2:資源・不動産などの「実物資産」を持っている
インフレとは「モノの値段が上がる」現象ですから、原油・天然ガス・金・銅といった資源権益や、都心の不動産を保有する企業は資産価値と収益の両面で恩恵を受けます。加えて、こうした企業は名目金額で借入をしている場合、債務の実質負担が目減りするという副次的なメリットもあります。
視点3:金利上昇が収益に直結する「金融ビジネス」
銀行は貸出金利の上昇が預貸金利ざやの拡大につながり、生命保険会社は新規に購入する債券の利回り上昇が長期の運用収益を押し上げます。日銀が2024年3月のマイナス金利解除以降、段階的に利上げを進めてきた結果、この効果は2026年に入って業績数値として明確に表れ始めました。
視点4:物価高で強まる「節約需要の受け皿」になれるか
見落とされがちですが、これも立派なインフレ耐性です。家計が支出を切り詰めるとき、消費そのものが消えるわけではなく、より安い選択肢へ移動します。低価格を武器にする小売企業は、物価高が続くほど客数が増えるという逆説的な構造を持っています。Vol.1では神戸物産・パンパシHDがこの枠でしたが、Vol.2では別の企業を取り上げます。
4つの視点はどれか1つを満たせば十分というものではありません。1銘柄で複数の視点を兼ね備えている企業(たとえば実物資産と金利メリットの両方を持つ総合金融)は、環境変化に対する耐性が一段と高くなります。
インフレに強い日本株10選【Vol.2】一覧比較
まずは全体像を一覧でご確認ください。数値は2026年8月中旬時点で各社が公表している最新の会社予想・実績に基づいています。
| 銘柄(コード) | セクター | インフレ耐性の源泉 | 注目ポイント |
| 三井物産(8031) | 総合商社 | 実物資産(資源権益) | 27年3月期は当期利益9,200億円予想。累進配当を29年3月期まで継続 |
| 住友金属鉱山(5713) | 非鉄金属 | 実物資産(金・銅) | 金・銅高で通期予想を大幅上方修正。売上高は初の2兆円台へ |
| 三菱地所(8802) | 不動産 | 実物資産(都心オフィス) | 丸の内エリア空室率0.55%。既存ビルの賃料増額改定が進行 |
| 三井住友FG(8316) | 銀行 | 金利上昇メリット | 27年3月期は4期連続最高益予想。新中計で「毎期増配」を明言 |
| 第一ライフグループ(8750) | 保険 | 金利上昇メリット | 27年3月期は純利益5,130億円予想。1Qは前年同期比4.7倍 |
| キッコーマン(2801) | 食品 | 価格転嫁力 | 1Qは売上収益15.0%増。北米・欧州の醤油ブランドが牽引 |
| 花王(4452) | 日用品 | 価格転嫁力 | 37期連続増配見込み。デジタル販促で値上げを浸透させ最高益圏 |
| JR東日本(9020) | 陸運 | 価格転嫁力+実物資産 | 26年3月に発足以来初の全面運賃改定。平均7.1%の値上げ |
| しまむら(8227) | 小売 | 節約需要の受け皿 | 1Qは売上高・各利益とも過去最高。実質無借金の強固な財務 |
| オリックス(8591) | その他金融 | 実物資産×金利 | 27年3月期は4期連続最高益予想。年間配当は約20%増の見込み |
各銘柄の強み・リスクを詳しく解説
※株価はYahoo!ファイナンスに遷移します
1. 三井物産(8031)
総合商社のなかでも資源・エネルギー分野の比重が高く、インフレ局面で最も分かりやすく恩恵を受ける一社です。鉄鉱石や原油・天然ガスの権益は、価格が上がればそのまま収益が膨らむ「実物資産」そのものといえます。
| セクター | 卸売業(総合商社)/東証プライム |
| 耐性の源泉 | 鉄鉱石・原油・天然ガスなどの資源権益(実物資産) |
| 27年3月期予想 | 当期利益9,200億円(前期比10.3%増)。4期ぶりの増益見通し |
| 直近四半期 | 26年4〜6月期の当期利益2,941億円(前年同期比53.4%増)。第1四半期として過去最高 |
| 株主還元 | 年間配当140円予想(前期比25円増)。29年3月期まで累進配当を継続 |
| 追加施策 | 26年8月5日〜27年1月29日に総額2,000億円の自社株買いを実施 |
2026年4〜6月期は鉄鉱石などの資源価格上昇と円安が追い風となり、当期利益は前年同期比53.4%増の2,941億円と第1四半期として過去最高を更新しました。通期予想は9,200億円を据え置いており、進捗率は32%と余裕のある滑り出しです。米国のシェールガス事業やオーストラリアの天然ガス事業など、新規案件の収益貢献も順次始まっています。
株主還元姿勢も明快です。2027年3月期の年間配当は前期比25円増の140円を予定し、2027年3月期から2029年3月期の新中期経営計画期間においても累進配当(減配せず維持または増配)を継続する方針を示しました。さらに8月の第1四半期決算と同時に総額2,000億円の自社株買いを発表し、3か年累計の基礎営業キャッシュ・フローに対する株主還元割合の目安も「約50%」から「50%超」へ引き上げています。
ポイント:資源価格と為替の両方がインフレ・円安方向に振れる局面では、業績と配当が同時に伸びやすい構造です。累進配当の明示により、市況が一時的に悪化しても配当が減りにくい点は長期保有派にとって心強い材料といえます。
2. 住友金属鉱山(5713)
「金」と「銅」という、インフレヘッジの代表格を鉱山権益として直接保有している点が最大の特徴です。通貨の価値が揺らぐ局面で買われやすい金と、AIデータセンターや再生可能エネルギーの拡大で構造的な需要増が続く銅。この2本柱を同時に持つ企業は日本株では希少です。
| セクター | 非鉄金属/東証プライム |
| 耐性の源泉 | 金・銅・ニッケルの鉱山権益と製錬(実物資産+コモディティ) |
| 27年3月期予想 | 売上高2兆650億円、当期利益2,160億円(前期比22.5%増)※26年8月10日に上方修正 |
| 直近四半期 | 26年4〜6月期の売上高5,401億円(同42.3%増)、当期利益879億円(同3.2倍) |
| 株主還元 | 年間配当207円予想。連結配当性向35%以上・株主資本配当率3.5%以上が方針 |
| 市況 | 銅は8月上旬にLME3か月先物で1トン14,369ドル、金は1オンス4,378ドル前後(26年8月10日時点) |
2026年8月10日に発表した第1四半期決算では、売上高が前年同期比42.3%増の5,401億円、当期利益が3.2倍の879億円と急拡大しました。同時に通期予想を大幅に上方修正し、親会社の所有者に帰属する当期利益は従来の1,390億円から2,160億円へと55%引き上げられています。5月時点で「前期比21%減益」としていた計画が、わずか3か月で「22.5%増益」へと反転した形です。売上高は初めて2兆円台に乗せる見通しです。
背景には、銅精鉱の供給不足とデータセンター向けインフラ投資の旺盛な需要があります。銅価格は史上最高値圏で推移し、金も地政学リスクと通貨不信を背景に高値を維持しています。加えてチリのケブラダ・ブランカ鉱山の持分法投資損益が改善したことも寄与しました。
ポイント:同社の感応度開示によれば、金価格が1オンスあたり10ドル上昇すると税引前利益は約3億円、銅価格が1トンあたり100ドル上昇すると約33億円押し上げられるとされています。市況の変動が業績にどう効くかを定量的に追えるのは、投資判断上の利点です。
3. 三菱地所(8802)
インフレ局面で不動産が強いのは、資産価値の上昇と賃料の引き上げという二重の恩恵を受けられるためです。なかでも三菱地所は、日本で最も希少性の高いオフィス立地である丸の内エリアに圧倒的な資産を保有しています。
| セクター | 不動産/東証プライム |
| 耐性の源泉 | 丸の内を中心とする都心オフィスの実物資産と賃料改定力 |
| 26年3月期実績 | 営業利益・純利益ともに過去最高を更新 |
| コマーシャル不動産 | 営業収益6,169億円(前期比14.4%増)、営業利益1,356億円(同8.8%増) |
| 空室率 | 丸の内エリアのオフィスビル空室率は26年3月末で0.55%(前年度比1.18ポイント低下) |
| 市況 | 東京主要7区の空室率は26年5月末で1.14%。都心オフィスの需給逼迫が継続 |
注目すべきは賃料の改定力です。同社社長は日本経済新聞のインタビューで、丸の内のオフィス入居企業について「交渉をしたほぼ全ての企業が5〜20%の賃料増額に応じた」と述べ、物価高と好調なオフィス市況を踏まえて「20%を超える水準も狙いたい」との考えを示しています。これはまさに教科書的な価格転嫁力といえます。
市況面の追い風も続いています。三菱地所リアルエステートサービスの調査によれば、東京主要7区の空室率は2026年5月末時点で1.14%と極めて低い水準にあり、平均募集賃料は上昇基調です。八重洲・京橋・日本橋エリアでは平均募集賃料が坪7万円台に乗る場面もありました。丸の内エリア自体の空室率は0.55%まで低下しており、増床ニーズに応えきれないほどの逼迫ぶりです。
ポイント:オフィス賃料は契約更新のタイミングで段階的に反映されるため、市況の改善が業績に効いてくるまでにタイムラグがあります。裏を返せば、すでに合意された増額改定分が今後数年にわたって収益に積み上がっていく「見えている成長」を持っているということです。
4. 三井住友フィナンシャルグループ(8316)
「金利のある時代」の最大の受益者が銀行です。日銀が2024年3月にマイナス金利を解除して以降、政策金利は0.25%→0.5%→0.75%→1.0%と段階的に引き上げられ、貸出金利の上昇が銀行の収益を押し上げる構図が定着してきました。
| セクター | 銀行業/東証プライム |
| 耐性の源泉 | 政策金利上昇による預貸金利ざやの拡大 |
| 26年3月期実績 | 純利益1兆5,829億円(前期比34.4%増)と3期連続で過去最高を更新 |
| 27年3月期予想 | 純利益1兆7,000億円(同7.4%増)。4期連続の最高益更新見通し |
| 直近四半期 | 26年4〜6月期の純利益5,013億円(前年同期比33%増)、経常利益6,931億円(同43.4%増) |
| 株主還元 | 年間配当180円予想(分割前ベース、前期比23円増)で6期連続増配。配当性向40% |
| 株式分割 | 2026年10月1日を効力発生日として普通株式1株を2株に分割予定 |
2026年3月期の純利益は前期比34.4%増の1兆5,829億円と3期連続で過去最高を更新。2027年3月期も1兆7,000億円と4期連続の最高益更新を見込みます。第1四半期は純利益5,013億円(前年同期比33%増)と好調な滑り出しで、経常利益は43.4%増と大幅に伸びました。貸出金は117兆円超、預金は185兆円超と規模も拡大しています。
株主還元の方針転換も見逃せません。従来は「減配しない」という累進的配当方針でしたが、新しい中期経営計画では「毎期増配」へと踏み込みました。配当性向40%を軸に据え、自己株式取得(上限1,800億円)と株式分割(2026年10月1日付で1株→2株)も併せて実施し、個人投資家層の拡大と資本効率向上の両立を狙っています。
ポイント:株式分割によって最低投資金額が半分になるため、これまで手が届かなかった方にも購入しやすくなります。新NISAの成長投資枠で高配当株を積み上げたい方にとっては、選択肢に入りやすいタイミングといえるでしょう。
5. 第一ライフグループ(8750)
生命保険会社は、預かった保険料を長期の債券などで運用するビジネスモデルです。長期金利が上がれば、新規に購入する国債の利回りが改善し、将来にわたる運用収益が積み上がっていきます。低金利が長く続いた日本では最も苦しんだ業種のひとつでしたが、環境が180度変わりました。
| セクター | 保険業/東証プライム(2026年4月1日に第一生命ホールディングスから商号変更) |
| 耐性の源泉 | 長期金利上昇による資産運用利回りの改善 |
| 27年3月期予想 | 経常利益8,690億円(前期比15.3%増)、純利益5,130億円(同17.5%増) |
| 直近四半期 | 26年4〜6月期の経常利益2,510億円(前年同期比195.6%増)、純利益1,600億円(同367.8%増) |
| 総資産 | 76兆3,227億円(前期末比2.9%増)。国内有数の機関投資家 |
| 株主還元 | 年間配当72円予想。累進配当方針を採用 |
2027年3月期第1四半期は、経常利益が前年同期比195.6%増の2,510億円、純利益が同367.8%増の1,600億円と劇的な増益となりました。日銀が6月に政策金利を1.0%へ引き上げたこと、原油高による物価上振れ警戒から長期金利が上昇したことが、資産運用収益の増加につながっています。通期では経常利益8,690億円、純利益5,130億円を見込んでいます。
なお同社は2026年4月1日付で「第一生命ホールディングス」から「第一ライフグループ」へ商号を変更しています。証券コード(8750)に変更はありませんが、証券会社の画面や記事によって表記が異なる場合があるためご注意ください。
ポイント:同社は約38兆円(グループ連結の総資産は76兆円超)を運用する国内有数の機関投資家です。運用ポートフォリオの利回りが1%改善するだけでも、収益インパクトは極めて大きくなります。金利上昇局面での「レバレッジの効いた」ポジションといえます。
6. キッコーマン(2801)
「KIKKOMAN」は日本発の調味料ブランドとして世界的に確立された存在です。海外、とくに北米では醤油が現地の食文化に組み込まれており、多少の値上げでは需要が落ちにくい構造を持っています。これこそが価格転嫁力の本質です。
| セクター | 食料品/東証プライム |
| 耐性の源泉 | 世界的な醤油ブランドによる価格転嫁力+海外売上比率の高さ |
| 直近四半期 | 27年3月期1Qの売上収益2,020億円(前年同期比15.0%増)、事業利益252億円(同29.3%増) |
| 四半期利益 | 190億円(前年同期比24.3%増)。1株当たり20.53円 |
| セグメント動向 | 国内は豆乳飲料・調味料が好調。海外は北米・欧州中心に、為替影響を除いても増収増益 |
| 通期見通し | 業績予想・配当予想ともに据え置き(26年8月5日時点) |
2026年8月5日に発表した第1四半期決算では、売上収益が前年同期比15.0%増の2,020億円、事業利益が29.3%増の252億円と大幅な増収増益を達成しました。特筆すべきは、円安効果を除いても海外事業が増収増益を確保している点です。為替の追い風だけに頼らず、実力ベースで伸びていることが確認できます。
国内でも豆乳飲料や調味料が堅調に推移しました。健康志向の高まりを背景とした豆乳市場の拡大は、物価高で消費が慎重になる局面でも底堅く推移しやすい分野です。円安が続く限り、海外で稼いだ利益が円換算で膨らむという構造的なメリットも働きます。
ポイント:海外売上比率が高い企業は、円安が進むほど円建ての利益が膨らみます。インフレ・円安がセットで進む局面では、国内需要一辺倒の食品株よりも収益の伸びが期待しやすい構造です。
7. 花王(4452)
洗剤・衛生用品・化粧品を扱う国内最大級の消費財メーカーです。「アタック」「ビオレ」「メリーズ」といったブランドは日常生活に深く根づいており、景気が悪化しても購入をやめるという性質の商品ではありません。
| セクター | 化学(日用品)/東証プライム |
| 耐性の源泉 | 生活必需品ブランドの値上げ浸透力+長期の増配実績 |
| 26年12月期予想 | 純利益1,300億円(前期比8.3%増)で3期連続増益。26年8月に営業利益予想を80億円上方修正 |
| 連続増配 | 1991年3月期以降連続増配中。26年12月期で37期連続増配となる見込み(国内最長クラス) |
| 直近業績 | 26年上期の営業利益は前年同期比38.5%増。ファブリック&ホームケア事業は営業利益率18.4%を維持 |
| 株式分割等 | 2026年7月1日付で普通株式1株を2株に分割。株主優待を新設 |
かつて「デフレの優等生」と呼ばれた同社ですが、近年は様相が変わりました。日本経済新聞は2026年8月、同社が値上げを浸透させる力を身につけたことで株価が約5年ぶりの高値圏に達したと報じています。マス広告中心のマーケティングから、会員サイトやSNSを活用したデジタルマーケティングへ転換し、顧客データを統合することで、値上げしても顧客が離れにくい状態をつくり上げてきました。
2026年上期の営業利益は前年同期比38.5%増。衣料用洗剤・住居用洗剤を扱うファブリック&ホームケア事業では、値上げだけでなく販売数量も伸ばしながら営業利益率18.4%を維持しています。「値上げしたのに数量が増えた」という結果こそ、価格転嫁力の何よりの証拠です。通期の営業利益予想も80億円引き上げられました。
ポイント:同社は1991年3月期から連続増配を続けており、2026年12月期の予想が実現すれば37期連続増配となります。これは日本の上場企業で最長クラスの記録です。物価上昇に負けないインカム(配当収入)を長期で確保したい方にとって、有力な候補のひとつといえます。
8. 東日本旅客鉄道(JR東日本)(9020)
2026年3月14日、JR東日本は1987年の会社発足以来はじめてとなる全面的な運賃改定を実施しました。消費税率改定などを除けば実に39年ぶりの値上げです。改定率は全体で平均7.1%、普通運賃7.8%、通勤定期12.0%。首都圏では「電車特定区間」「山手線内」という割安な運賃区分が「幹線」に統合されたため、山手線内の移動では20%前後の値上げとなったケースもあります。
| セクター | 陸運業/東証プライム |
| 耐性の源泉 | 運賃改定による価格転嫁+駅周辺の不動産という実物資産 |
| 運賃改定 | 2026年3月14日に全エリアで平均7.1%の改定を実施(普通運賃7.8%、通勤定期12.0%、通学定期4.9%) |
| 27年3月期予想 | 売上高3兆2,950億円(前期比7%増)、営業利益4,290億円(同4%増)、純利益2,550億円(同3%増) |
| 利益インパクト | 運賃改定を主因とする運輸収入の増加が営業利益を約950億円押し上げる見通し |
| 株主還元 | 年間配当84円予想(前期比10円増) |
この改定効果が通期で反映される2027年3月期は、純利益2,550億円と2019年3月期以来8年ぶりの高水準が見込まれています。売上高は3兆2,950億円と2期連続で過去最高を更新する計画で、運輸収入の増加が営業利益を約950億円押し上げるとされています。年間配当も前期比10円増の84円へ引き上げられました。
見落とされがちですが、JR東日本は首都圏一等地の駅とその周辺に膨大な不動産を保有する巨大地主でもあります。2025年に街びらきした高輪ゲートウェイシティをはじめとする開発案件は、賃料収入という形でインフレの恩恵を受けます。不動産賃貸収入の増加も今期の利益成長に寄与する見通しです。
ポイント:公共交通は国土交通省の認可が必要なため、これまで物価上昇局面でも値上げが困難でした。今回の認可は「鉄道でも価格転嫁が可能になった」というレジームチェンジを意味します。運賃改定はJR九州・JR西日本など他社にも広がっており、業界全体の構造変化として捉える視点も有効です。
9. しまむら(8227)
物価高が続くと、家計は「支出を減らす」のではなく「より安い店へ移る」という行動をとります。この受け皿になれる企業は、インフレが逆風ではなく追い風になります。しまむらはその代表格です。
| セクター | 小売業/東証プライム |
| 耐性の源泉 | 低価格を武器にした節約需要の受け皿 |
| 26年2月期実績 | 売上高7,000億円、営業利益614億円、純利益444億円。いずれも過去最高を更新 |
| 27年2月期予想 | 売上高7,291億円(前期比4.2%増)、営業利益668億円(同8.7%増)、純利益473億円(同6.4%増) |
| 直近四半期 | 26年3〜5月期の売上高1,816億円(同7.9%増)、営業利益178億円(同16.8%増)、純利益128億円(同19.0%増) |
| 財務 | 有利子負債なし、自己資本比率85.4%、流動比率440.7%と極めて強固 |
| 株式分割 | 2026年2月21日付で普通株式1株を3株に分割 |
2026年2月期は売上高・売上総利益・営業利益・純利益のすべてで過去最高を更新しました。2027年2月期第1四半期(3〜5月)も売上高が前年同期比7.9%増の1,816億円、営業利益が16.8%増の178億円と、この期間として3年連続の最高益。しまむら・アベイル・バースデイの3事業すべてで既存店売上高と客数が前年を上回りました。売上営業利益率は9.1%から9.8%へ改善しています。
成長の中身も評価できます。プライベートブランド(PB)の進化、キャラクター企画の拡充、ヒット商品の開発、販促手法の多様化により、単なる安売りではなく「安くて欲しくなる商品」を提供する体制が整ってきました。値入率の改善が進み、売上総利益率が上昇している点は特筆に値します。
ポイント:有利子負債ゼロ、自己資本比率85.4%、現金及び預金417億円という財務体質は、金利上昇局面において大きな強みになります。借入コストの上昇が業績に影響しない企業は、「金利のある時代」では相対的に有利なポジションを取れます。
10. オリックス(8591)
リース会社という括りでは実態を捉えきれない、多角的な総合金融グループです。不動産、航空機リース、環境エネルギー、保険、事業投資など、実物資産に紐づく事業を幅広く手がけています。インフレ局面では、これらの資産価値とリース料・賃料が同時に上昇する構図が働きます。
| セクター | その他金融業/東証プライム |
| 耐性の源泉 | 不動産・航空機・再生可能エネルギーなど実物資産の分散保有 |
| 26年3月期実績 | 営業収益3兆3,308億円(前期比15.9%増)、純利益4,472億円(同27.2%増) |
| 27年3月期予想 | 純利益5,300億円(前期比18.5%増)で4期連続の過去最高益見通し |
| 直近四半期 | 26年4〜6月期の営業収益8,766億円(同17.4%増)、純利益2,808億円(同2.6倍) |
| 株主還元 | 年間配当187.36円の見込み(前期比31.26円増、約20%増)。最大2,500億円の自社株買いを実施 |
2026年3月期は営業収益が前期比15.9%増の3兆3,308億円、純利益が27.2%増の4,472億円と大幅な増収増益となりました。特に環境エネルギーセグメントは、再生可能エネルギー関連の評価益・売却益により前期の赤字から1,157億円の利益へ急回復しています。2027年3月期は純利益5,300億円と4期連続の最高益更新を見込みます。
株主還元も強化されています。2026年3月期の年間配当は120.01円から156.10円へ大幅増配され、2027年3月期は187.36円(約20%増)の見込みです。加えて最大2,500億円の自社株買いも実施します。オリックス銀行を大和ネクスト銀行へ売却するなど、ROEを重視した事業ポートフォリオの入れ替えも進めています。
ポイント:ひとつの銘柄で「実物資産」と「金融」の両方の耐性を持てる点が、オリックス最大の魅力です。ポートフォリオに組み入れる銘柄数を絞りたい方にとっては、効率のよい選択肢になり得ます。
Vol.1とVol.2をどう組み合わせるか ─ ポートフォリオ設計の考え方
20銘柄すべてを買う必要はありません。大切なのは、異なる耐性タイプをバランスよく組み合わせることです。以下は考え方の一例です。
- 【資源・実物資産】
商社・鉱山・不動産から1〜2銘柄。インフレの直接的な恩恵を受ける中核パーツ - 【金利上昇メリット】
銀行・保険・総合金融から1〜2銘柄。日銀の追加利上げが進むほど効いてくる - 【価格転嫁力】
食品・日用品・インフラから1〜2銘柄。値動きが比較的穏やかで、下落局面の緩衝材になる - 【節約需要】
ディスカウント小売から1銘柄。景気が悪化しインフレが長引くケースへの備え
この4分類から均等に選ぶだけでも、単一セクターに集中するリスクは大きく下がります。資金量に応じて、まずは2〜3銘柄からスタートし、値動きの癖を掴んでから広げていくのも現実的な進め方です。
個別株を何銘柄も管理するのが負担に感じる場合は、高配当株ETFやインデックスファンドを土台に据え、その上に個別株を数銘柄だけ乗せる「コア・サテライト戦略」も選択肢になります。新NISAの成長投資枠は個別株にも投資信託にも使えるため、ご自身の管理可能な範囲で設計してみてください。
インフレ関連銘柄に投資する際の3つの注意点
注意点1:すでに株価に織り込まれていないかを確認する
2026年の日本株市場は、日経平均が6月に一時7万円台に乗せるなど大きく上昇しました。「インフレに強い」というテーマ自体は市場で広く認識されており、良い材料はすでに株価に反映されている可能性があります。予想PER・PBR・配当利回りを同業他社と比較し、割高感がないかを確認してから投資判断を行いましょう。
注意点2:一過性の利益と実力の利益を分けて読む
本記事でも触れたとおり、資産売却益や株式評価益で四半期利益が急拡大するケースは少なくありません。決算の見出しの数字だけで判断せず、本業でどれだけ稼げているのか、そのキャッシュフローは継続的なものかという視点で確認する習慣をつけてください。決算短信のセグメント情報や決算説明資料が役立ちます。
注意点3:インフレが鈍化・反転するシナリオも想定する
コアCPIの上昇率は2026年に入って1%台に落ち着いており、日銀が想定するほど物価が伸びない可能性もあります。中東情勢が安定して原油価格が下落すれば、資源株には逆風となります。「インフレが続く」という一方向の前提だけで銘柄を固めるのではなく、シナリオが外れた場合に何が起きるかを事前に整理しておくことが大切です。
インフレに強い日本株に関するよくある質問【FAQ】
Q. Vol.1とVol.2、どちらから見ればよいですか?
A. どちらから読んでいただいても問題ありません。Vol.1はインフレに強い銘柄の基本的な考え方(価格転嫁力・実物資産・金利上昇メリットの3視点)を中心に構成しており、Vol.2はそこに「節約需要の受け皿」という4つ目の視点を加え、2026年8月時点の最新決算を反映しています。すでにVol.1の銘柄を保有されている方は、重複しない耐性タイプを補う目的でVol.2をご覧いただくのが効果的です。
Q. 政策金利が1%になりましたが、この先どこまで上がりますか?
A. 正確な予測は困難ですが、日銀が2026年3月に公表した名目中立金利の推計レンジは1.1%〜2.5%でした。政策金利1.0%はまだ中立水準に達しておらず、市場では2026年内から2027年にかけて追加利上げが行われるとの見方が多くなっています。ただし利上げのペースは物価・賃金・為替・海外情勢によって変わるため、あくまで一つのシナリオとして捉えてください。
Q. インフレに弱い銘柄の見分け方を教えてください。
A. コスト上昇分を販売価格へ転嫁しにくい企業です。具体的には、価格競争が激しく差別化が難しい業種、公共料金のように価格改定に時間や認可を要する事業、多額の変動金利借入を抱え金利上昇で利払い負担が増える企業などが該当します。決算資料で売上総利益率(粗利率)の推移を確認し、原材料高の局面で低下し続けている企業は転嫁力が弱いと判断できます。
Q. 配当利回りが高ければ高いほどよいのでしょうか?
A. そうとは限りません。配当利回りは「配当÷株価」で計算されるため、株価が下落しているだけで見かけ上の利回りが上がることもあります。重要なのは配当の持続性です。配当性向が高すぎないか、利益とキャッシュフローが配当を賄えているか、累進配当や連続増配といった方針が明示されているかを併せて確認してください。花王のような連続増配銘柄は利回りこそ控えめでも、増配の継続性という別の価値を持っています。
Q. 新NISAでインフレ対策はできますか?
A. 新NISAの成長投資枠では個別株にも投資でき、配当金や売却益が非課税になります。通常なら配当に約20.315%の税金がかかるため、高配当株を長期保有する場合の効果は小さくありません。ただし非課税枠には上限があり、損失が出ても他の口座と損益通算できない点には注意が必要です。ご自身の投資方針と生活設計に照らして活用範囲を判断してください。
Q. 株式以外にインフレ対策になる資産はありますか?
A. 一般に、金(ゴールド)、不動産、物価連動国債、外貨建て資産などがインフレヘッジ手段として挙げられます。それぞれ値動きの性質やコスト、流動性が異なるため、株式と組み合わせることで分散効果が期待できる場合もあります。ただしどの資産にもリスクがあり、インフレ局面で必ず上昇することを保証するものではありません。ご自身の目的と期間に合わせて検討してください。
まとめ:「金利のある時代」に合わせて銘柄選びをアップデートする
本記事では、インフレに強い日本株10選のVol.2として、Vol.1と重複しない10銘柄をご紹介しました。最後に要点を振り返ります。
- 2026年6月に政策金利は1.0%へ。物価の上昇率は落ち着いたが水準は高止まりしており、インフレ前提の投資戦略は依然有効
- 銘柄選びの軸は「価格転嫁力」「実物資産」「金利上昇メリット」に「節約需要の受け皿」を加えた4つ
- Vol.2の10銘柄は資源・素材、不動産、金融、食品・日用品、インフラ、小売に分散。Vol.1と組み合わせることで耐性タイプを補完できる
- 決算の見出しの数字だけでなく、一過性利益と本業の利益を分けて読む習慣が判断の質を高める
- インフレが鈍化・反転するシナリオも想定し、余裕資金の範囲で長期・分散・積立の基本を守ることが重要
物価高は家計にとって重い負担ですが、視点を変えれば「インフレの恩恵を受ける企業のオーナーになる」機会でもあります。本記事が、ご自身の投資方針に合った銘柄選びの一助となれば幸いです。

















